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最高裁判所第二小法廷 昭和50年(あ)1719号 決定 1976年4月21日

本籍

韓国慶尚南道昌原郡鎮北面網谷里五四八

住居

山口県宇部市大字小串一一一五番地の一

会社役員

都相龍

一九二二年一二月二〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、昭和五〇年六月二七日広島高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人藤堂真二の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認の主張を出ないものであつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 吉田豊 裁判官 岡原昌男 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 本林譲)

昭和五〇年(あ)第一七一九号

被告人 都相龍

弁護人藤堂真二の上告趣意(昭和五〇年一〇月六日付)

原判決には次のとおりの違法がある。

第一、昭和三七年度及び昭和三八年度所得額計算の違法

一、検察官が第一審裁判所に提出した冒頭陳述書添付の修正貸借対照表(総合)によれば、被告人の昭和三七年度所得は金三一、七五二、四九九円、昭和三八年度所得は金五六、八〇一、三五九円となつている。第一審及審はこの数額を認容し、原判決は、

昭和三七年度増減計算に、昭和三六年度よりの繰越利益金一四、〇五一、七五三円、昭和三八年度増減計算に昭和三七年度よりの繰越利益金二五、〇四八、八六〇円を記載しているのは財産増減法上意味のない数値を記載したものである。

と判示されたが、同表によれば昭和三七年度の当期所得額は昭和三六年度よりの繰越利益額と当期所得額を合算されたものであり、昭和三八年度所得額も昭和三七年度よりの繰越利益額と当期所得額を合計したものである。そして第一審判決はその数額をそのまゝ両年度の所得額と認定しているのである。

このように現に認定された所得額が繰越利益額と当期所得額が合算されたものであるのに拘らず原判決が繰越利益金の記載は意味のない数値であるとされる理由が解し難い。右は一度課税された所得に累年課税されることとなるのであつて、原判決は経理上の法則と税法に違反するものである。

二、更に原判決が

同欄の各所得としては昭和三七年度及び昭和三八年度中増減欄中それぞれ資産の部の各科目の合計金額「四八、九九八、八五〇円」「八六、五五四、〇七二円」から負債の部の繰越利益金を除いた各科目の合計金額「一七、二四六、三五一円」「二九、七五二、七一三円」をそれぞれ差引いた「三一、七五二、四九九円」「五六、八〇一、三五九円」の数値を記載するのが正当である。

と判示されているその「一七、二四六、三一五円」「二九、七五二、七一三円」という数額は同表中どの科目の金額を合算されたのか不明であつて、所得計算に関する理由そご又は不備の謗を免れない。

第二、大石太郎との二重課税について

一、検察官は東みやこの昭和三七年度営業は被告人個人の営業であるとして起訴し、従つて大石太郎の所得申告、これに対する税務署のなした更正決定は東みやこ同年度所得全部に対するものとしている。第一審も同様に認定されたのであるが、原審に至つて、本件を主査として調査した広島国税局査察官小川吉宏は、東みやこの昭和三七年度営業は被告人と大石太郎との共同経営と認め、同店よりの所得は両名折半の所得とした、大石の申告に対する更正決定は同店よりの所得の二分の一になされたものであると証言した。

若し検察官及び第一審が正しいとするならば大石太郎が納付した更正決定税額二七三、五五〇円を被告人に対する税額より差引かれるべきであり、又小川証言が正しいとすれば被告人の所得計算は三店を通じての資産増減法によらず、東みやこのみは大石同様損益計算法によつてなされるべきである。そして被告人と大石は同額でなければならない。若しそうすると被告人の所得は資産増減法によつて算出された額より東みやこ分を差引くことで足りるであろうか、東みやこと外二店の計算方法が異る以上そのようなことは許されない、増加した個々の資産はどの店からの利益によつて得られたものかは判らないのである。

小川証人は二重課税の非難を免れる為右のような証言をしたがその証言と検察官の処理とは違うのである。

大石の納税が東みやこの所得全部に対するものであつても、同人所得分である二分の一であつても、この所得税が徴収されている以上は、被告人の所得の正確な計算はも早不可能である。

二、第一、二審判決は大石に対する課税額につき被告人に対し二重に課税したことを認容した違法がある。

以上の理由により原判決は破毀されるべきものと信ずる。

以上

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